角栓形成のメカニズム
はじめに
角栓は皮脂3割、古い角質(タンパク質)7割で形成されていると言われている。しかし、肌のターンオーバーは体全身で行われているにもかかわらず、角栓が形成されるのは顔である。この論文では、角栓が形成される場所に着目したところ、角栓形成のメカニズムに繋がる発見をしたので報告する。
《角栓の原因》
角栓は皮脂、古い角質(タンパク質)で形成されている。皮脂腺は足底と手のひら以外の全身にあり、肌のターンオーバーも全身で行われる。皮脂と古い角質が角栓の原因ならば、全身に角栓が形成されるはずである。しかし、角栓は全身にできるのではなく、顔に集中して形成される。なぜ角栓は顔に集中するのか。顔と他の部位では何が違うのか考えると角栓と同じように顔に集中するものがある。それはニキビである。さらに、にきびの芯は角栓である。顔は菌が繁殖しやすい場所である。また、同じ顔の分泌物として鼻水や目やに、耳垢などがあるが、これらは細菌やウイルスにかかった時に多く分泌される。これら顔の分泌物は殺菌や除菌としての役割を果たしているとされている。角栓にも同じ原理が働いているのではないかと考えた。つまり、免疫が関係していると私は考えた。そこでまず角栓と菌との関係について調べると次の論文が見つかった。
①山崎浩子、成田美穂、森田哲史 株式会社ナリス化粧品 研究開発部 研究課
「ケラチン17に着目した角栓形成メカニズムに関する研究」『 第73回 研究討論会講演要旨集』日本化粧品技術者会 2013/11/29
“角栓形成に関与する可能性が高いと考えられた回復皮脂量、過酸化皮脂量と角栓数との関係性を調べたところ、ほとんど相関性はないようであった。一方、小鼻部に存在する嫌気性菌数との関係性を調べたところ、嫌気性菌数
と角栓数に比較的強い相関が見られた。”
この論文では、嫌気性菌数 と角栓数から嫌気性菌によって角栓が形成されると考察している。アクネ菌、マラセチア、ブドウ球菌などの常在菌は嫌気性である。そして、この論文では角層と角栓ではタンパク質の構成が異なり、角栓にはケラチン17[1](タンパク質)が多く含まれていたと報告している。つまり、角栓のタンパク質は古い角質ではないとこの論文で確認することができる。さらに嫌気性菌とケラチン17の関係について調べると次の論文が見つかった。
②「Effects of Propionibacterium acnes various mRNA expression levels in
normal
human epidermal keratinocytes in vitro,」2009/04
Akaza N, Akamatsu
H, Kishi M, Mizutani H, Ishii I, Nakata S, Matsunaga K,
“All P.acnes strains used in this study increased
transglutaminase(TGase),keratin 17 (K17) and interleukin(IL) mRNA expression
levels in NHEK, and decreased K1 and K10 expression
levels.”
この論文で確かに嫌気性菌であるアクネ菌がケラチン17の発現レベルを増加させると報告している。
《角栓形成のメカニズム》
角栓形成に嫌気性菌が関わっていることがわかった。しかし嫌気性菌がなぜ角栓を形成するのかはわかっていない。そこで私は嫌気性菌がどのようにしてケラチン17を発現させるのか免疫に着目し、検討した。
真菌や細菌(ウイルスも)に感染するとサイトカイン[2]という免疫に関係した物質が分泌されることがわかっている。
アクネ菌については次の論文がある。
③「IL-1βdrives inflammatory responses to Propionibacterium
acnes in vitro and in vivo.」『PubMed』
Kistowska
M 1、Gehrke
S 1、Jankovic D 1、Kerl
K 1、Fettelschoss A 1、Feldmeyer
L 1、Fenini G 1、Kolios
A 1、Navarini A 1、Ganceviciene
R 2、Schauber J 3、Contassot
E 1、French LE 1。
1Department of
Dermatology, University Hospital,Zürich, Switzerland.
2Certre of
Dermatovenereology, Vilnius University Hospital, Vilnius, Lithuania.
3Department of
Dermatology and Allergy, Ludwig-Maximilian University,Munich,Germany.
2014/3. Epub
2013/10/24
“Moreover, we identify P. acnes as a trigger of monocyte- macrophage
NLRP3-inflammasome activation, IL-1β processing and
secretion that is dependent on phagocytosis, Lysosomal destabilization,
reactive oxygen species, and cellular K+ efflux”
この論文ではアクネ菌がIL-1βというサイトカインを誘発すると報告している。
もう1つ論文をみてみる。
④「IL-17/Th17 pathway is activated in acne lesions.」『PubMed』
Kelhälä HL¹, Paalatsi R¹, Fyhrquist
N², Lehtimäki S², Väyrynen JP³, KAllioinen M³, Kubin ME¹, Greco D², Tasanen K¹, Alenius H² ,Bertino B⁴, Carlavan I⁴, Mehul B⁴, Déret S⁴, Reiniche P⁴, Martel P⁵, Marty C⁵, Blume-Peytavi U⁶, Voegel JJ⁴, Lauerma A⁷.
2014/8/25
1 Department of
Dermatology, University of Oulu and Medical Research Center, Oulu University
Hospital,Oulu,Finland
2 Unit of Systems
Toxicology, Finnish Institute of Occupational Health,Helsinki Finland
3 Department of
Pathology, University of Oulu and Oulu University Hospital Oulu Finland
4 Research, Galderma
R&D, Sophia Antipolis, France.
5 Early
Development, Galderma R&D,Sophia Antipolis,France.
6 Department of
Dermatology and Allergy,Charite Universitätsmedizin, Berlin, Germany
7 Department of
Dermatology, University of Helsinki and Helsinki University Central Hospital
Helsinki,Finland.
この論文ではアクネ菌がIL-1β、IL-6、IFN-γというサイトカインを誘発すると報告している。
真菌についても次の論文がある。
⑤加納塁『サイトカイン産生からみた皮膚真菌症の病態』
日本大学生物資源科学部獣医臨床病理学研究室
http://www.jsmm.org/common/jjmm45-3_131.pdf (2017/02/26)
“カンジダではIL-8, 皮膚糸状菌ではIL-8, TNF-α, マラセチアではIL-1β, IL-6,
IL-8, TNF-αの産生が確認された。”
IL-6,IL-8,TNF-α,IL-1βはサイトカインである。細菌や真菌によって免疫細胞からサイトカインが分泌されることが確認できた。それらサイトカインはケラチンを誘発することが判明している。
例えば、ケラチン17に注目した次の論文がある。
⑥「Regulation of epidermal expression of keratin K17 in inflammatory
skin diseases.」 『PubMed』
Komine M1,
Freedberg IM, Blumenberg M
1 Ronald O.
Perelman Department of Dermatology, New York University Medical Center, NY
10016,USA. 1996/10
この論文ではIFN-γ、IL-6というアクネ菌やマラセチアによって誘発されるサイトカインがケラチン17を誘発することが報告されている。サイトカインはSTAT1を活性化することでケラチン17を誘発するとも書かれている。
もう一つ論文をみてみる。
もう一つ論文をみてみる。
⑦「IL-1 beta and IFN-gamma induce the regenerative epidermal phenotype
of psoriasis in the transwell skin organ culture system. IFN-gamma up-regulates
the expression of keratin 17 and keratinocyte transglutaminase via endogenous
IL-1 production.」『PubMed』
Wei
L 1 , Debets R, Hegmans JJ, Benner R, Prens EP.
1Department of
Dermatology, General Hospital of the Air Force, Beijing, P.R.China.
1999/02
この論文でも、アクネ菌によって誘発されるIL-1β、IFN-γというサイトカインがケラチン17を誘発することが確認できる。2つの論文でサイトカインがケラチンを誘発することが確認できた。
《結論》
真菌や細菌に免疫が反応しサイトカインが分泌される③④⑤。そのサイトカインが(STAT1活性化を介して)ケラチンを誘発する⑥⑦。誘発されたケラチン(タンパク質)が皮脂と混ざり合い角栓となる。細菌や真菌→サイトカイン→ケラチンという流れである。
これが角栓形成のメカニズムだと考えられる。